蛍の光
夫と結婚する前の話だけれど。
蛍狩りが夢だった。
初めてその夢をかなえてくれた人を愛していた。
掴んだ蛍を、居合わせた知らない幼児の手のひらに包ませた。
手のひらに光る蛍。
幼児は幼すぎ、なんの反応もなく、その光をただ見つめていた。
母親とおばあさん、お兄ちゃんと来ていた。
父親はいなかった。
一緒にいた愛する人は、不公平があってはいけないと、幼児のお兄ちゃんのために蛍を捕えた。
そういう想像、理解を安易にできる人だった。
どこかのオバサンが蛍をくれたことが、そのコに残ろうと残らなまいと。
その小さな手のひらに何かを残せたのかもしれない。
その頃もすでに歳を重ね、おそらく子どもは産めないだろうと感じていた。
「あー、このコにコレを残せたのなら、それでいい。
私がいなければ、いまこの手のひらに光はなかった」
そう思った。
それは、私も愛する人から、蛍の光をもらったから。
愛されていることに充たされていたから。
だからかも知れない。
あまりにも良い夜だったから。
もう、誰とも、蛍の光を見たいとは思わない。